今から20年ほど前、新潟県の会社から、私の開発したセイロ蒸器で美味しい「おこわ」を量産したいと相談があり 試作する事になりました。その会社社長の知人におこわ、赤飯作りのとても上手なお婆ちゃんが居たとの話を聞き、 その秘訣を聞きに伺ったことがあります。 お婆ちゃんは「もち米だけでなく飯米も少し混ぜ、良く研ぎ洗いをし、ザルに入れ、湧き水のところに一晩漬け、 窯焚きのセイロ蒸しをするのが秘訣」と話して呉れました。冷たい水に入れると米が風邪を引くよ・・・とも。 湧き水の温度は年間を通じて13℃〜18℃くらいとの事・・懐かしい話です。

この話を、飲食店の指導をしている方にしたところ、普通の炊飯にも応用できる筈と、指導先の 炊飯業務に実施させてみたのです。米を良く洗い、水に氷を適量入れ13℃位にし、洗った米を 入れると15℃から16℃となる。30分以上の浸漬をした後、炊飯釜で炊き上げる方法として実施させたのです。 店長、料理長もご飯が美味しくなったと自信を持ち始め、この方式を定着させていたところ、お客様から「ご飯が最近美味しくなった・・」との声が寄せられるようになり、評判 となって来たとの事。系列の店でも同様に評判がよくなり、業績も向上し始め、お礼の報告があったのです。

 

[科学的検証 ]

籾を田んぼに撒き、冷たかった水の温度が15℃になれば、発芽を開始すると農業技術者に 聞いた事があり、又、米を貯蔵するときの最適温度が15℃位とも聞き、これらがご飯を炊く時の 、美味しさとも関係するのか、解らないまま、科学的検証をしてみたいと思い、炊飯テスト分析を行う愛知県の(株)アイホー炊飯総合研究所の平田所長にお願いし、米の浸漬温度の違いによる、炊飯テストを行って貰う事にした。平田所長の話では、ご飯を炊く方法として夏場に、浸漬水に氷を入れる例や洗米を冷蔵庫で冷やして炊く方はいるが、こうした浸漬温度を厳密に15℃に 管理している例は聞いた事がないとの話であった。 通常の水道水(22℃から23℃)と、その水を冷却し15℃とし、テストを行う事にしたのですが 浸漬水との温度差が僅か7〜8℃であり、効果についてはそれほどの違いは生じないのではと検証する担当者の最初の感想でした。今回のテストは、同一の米を使用し、水道水の浸漬温度の違いによる炊飯テストを行い、その結果を見るため、新潟産の上質コシヒカリを使用する事に 700g(5合)の米を23℃の水道水で洗い、浸漬75分(15℃と23℃)、ザル上げ、水切り5分、 炊飯の水量を同一として、厳密な同一条件の下でIH自動炊飯器を使用し炊き上げた。

炊飯データ1.浸漬増加率 2.米飯増加率 3.米飯含有率 4.味度値 5.食味値(炊きたて) 6.食味値(16時間後)等を数値化し判定する。更に食感を作る硬さ、こし、粘り、弾力性、咀しゃく度などの物性を計測し比較を行い、試食による官能比較を行った。

15℃浸漬米は重要増加が1.3%多くなり、炊き上がり時間は1分46秒長く重量は4%増えていた。ここでは詳細なデータについて省略しますが、驚くべき明らかな違いが生じ、15℃浸漬による炊飯はデータと官能比較でも食感に違いがあり、確かに美味しいとの結果が出たのです。

 

[違いの生じた要因 ]

1.米を水に浸漬して置けば、徐々に浸透し膨張するが、水温が低い法が含水量は高くなるのである。しかし最適水温のことは分かって居なかった。米を水につけておくとやがて表面は白濁するが、15℃の法は白くなる現象は遅くなる。この現象の違いが米の含有状態の違いを作ると思われる。

2. 含水率の高い米と最初の水温が低い事は、炊き始めの温度上昇が遅くなり、炊飯温度曲線に違いが生じ、同時に炊飯終了時間が遅くなることを意味する。釜の炊飯曲線は一気に上昇するよりも、米粒に水分を吸わせながらゆるやかに上昇させることが望ましいとされているが、お米自身が釜の性能をカバーする炊飯条件を作り出したと言える。

3.炊き上がったご飯のふくらみは2.52倍になり、てり、艶が明らかに違い、こし、香りも強く、

口に含むと米の粒々を感じ、弾力性ある食感を感じる。試食した方々の感想では、その違い

は時間を経過した冷えた状態の時ほど感じたとのことであった。

4. 美味しくご飯を炊いてください

炊飯に携わる方々の間では、2月頃に炊いたご飯が美味しといされ、夏場のご飯は不味くなりやすいとされています。 このこともお米の状態や炊飯条件が温度に関係を持っていたと考えることは出来ないでしょうか。ご飯を炊くときに15℃の水に浸漬して、美味しいご飯にして食べて下さい。ご家庭で簡単に出来る方法です。