種々の熱加工の中で、最も効率的で熱伝達が良い火を通す方法は、水蒸気で食物を包み熱交換する方法、つまり、”蒸す”方法である。最近はスチーミングと呼ぶようになった。温水や熱水を使った加熱法よりも蒸気で直接加熱する方法は熱伝達が早く最も効率的な方法である。調理や食品加工の業界では、温、熱水加熱の方が早く、効率が良いと誤解されている方々が今でも大変多い事に驚かされる。『蒸す』方法は、古来からある『セイロ蒸し』が知られている。セイロの中に食物を入れ、下から蒸気を送り、充満させ、余分な蒸気は蓋から逃しながら蒸しを行う。お餅、おこわを作る時にもち米を蒸す場合に多く使われ、その温度はほぼ100℃となっている。セイロは蒸籠と書き、本来は食物を籠に入れ釜に吊るした様にして蒸す方法を表す。蒸し器も様々に発展し、その1つに蒸し器を竹で編んだ籠状にし、自然に蒸気が抜ける状態で蒸す方法がある。中華せいろはこの方式であるが、送る蒸気を弱くすれば蒸し器の中の温度は下がり100℃以下になる。また、酒造りに用いられた甑(こしき)や大豆を蒸すのに用いられた蒸し器の場合、蒸し器の蓋にシートをかぶせ重しを載せ、圧力を掛け温度が高くなる蒸しを行って来た。

1、この様に、蒸すと言えば一般的に100℃で蒸すものとして来た。

2、密開形の蒸し器を使い、蒸気の圧力、温度を高めて蒸す『高温蒸し』がある。

3、蒸し器の蓋に逃がしを付け、また蒸籠の蓋網から蒸気が自然に漏れ、内部の温度が

上がらず蒸す、『低温蒸し』の方法がある。その1つに昔、行われていた茶葉の蒸し方法、また一部の調理人が経験の中から工夫し火力を弱め鍋の蓋をずらして蒸す方法がある(70℃〜90℃)。

こうした3つの方法は調理や食品加工の単なる熱加工の1つであった。

蒸す方法は安定した温度で空気の無い空間で食物に熱伝達が行われ、旨味成分を閉じ込め、

酸化作用が進まず、低温蒸しの場合、多少空気が混在しても酸素の割合は低く、褐変、酸化作用は他の加熱方法に比較すると極めて低く抑えられる。この優れたスチーミング加熱法を、単なる蒸物に使うばかりでなく、前述1)の焼物、揚物、煮物、炒物等の前処理に使用したらどの様になるのか。素材の特性を活かした温度で火を通しておけば最終的調理作業は時間が短く手間も簡単になる。低温蒸しした素材を調理すると、今までに知られていなかった現象が数々あらわれて来る。

素材はより活き、美味しくなり、体に優しい健康的な食物を作る調理技術に発展する。では、なぜ低温スチーミングは良いのか。