数多くある熱作用の内、素材を活かし、旨味、美味しさを作る熱の与え方とその温度はどのような温度であるか。表3の内2、4、5、7、8、9、10、11、12、13、14、17,19、21、26、等は美味しさを作る上で極めて重要な熱作用であるが、その理想的熱作用の温度は13の焼く事、高温菌の死滅を除いて予想以上低い温度となる。殆どが100℃以下になってしまう。
 

表3 加熱目的、熱作用や働きを考える

1)酸素を失活させる 18)脱水、水分蒸発、乾燥
2)酸化を止め、褐変を防止する 19)細胞の結合性を下げ分解、ほぐれを良くする
3)細菌、寄生虫を死滅させる 20)表皮の分離性を良くする。皮剥ぎ(ピーリング)
4)蛋白質を凝固させる 21)弾力性を高める、硬化、固化させる
5)澱粉をアルファ化させる、糖質化させる 22)融解、混合及び融合を良くする
6)活性酵素を働かせる 23)膨化、膨張、膨潤させる
7)肉質を柔らかく、歯切れ、食感を良くする 24)酸化を促進させる
8)消化、吸収を良くする 25)縮小、シュリンクさせる
9)栄養価を高め、多く保存する 26)水分、調味液を吸収、浸透させる
10)臭気、揮発成分の放散(脱臭、消臭) 27)含有成分の分離抽出
11)色調、艶を良くする、色だし 28)発酵させる、発酵促進
12)素材の香りを出す、良くする、香りを付ける 29)あくだし、あく抜き、渋だし、渋切
13)焼く、焦がす、炙る、いぶす、燻煙、炒める、煎る 30)煮詰める、濃縮する
14)素材を熟成させる 31)成分を結晶させる
15)脂肪分の溶解、水溶性タンパク質の抽出(エキス) 32)保存、温蔵
16)ゼラチンの分解、ゲル化力の低下 33)脱気、その他
17)自由水、遊離水など水分の抽出、流出  

 一般的加熱の必要温度は、酵素失活、褐変防止、蛋白の凝固、肉質の軟化、色出し、一般細菌の殺菌などをもくてきとした温度は最高80℃で十分クリアーする。穀物などの澱粉の糊化は90℃前後である。焼き物の温度は300℃を超える場合もあるが、揚物の温度は140〜200℃であり、それは素材の表面に接する温度であって、内部の温度は60℃〜80℃にて終了する。焼く、揚げることを別にして、食物に火を通す最適温度は一般的認識温度よりも低い温度が良い事が分る。ここで注目したいのは14の素材の熟成である。素材そのものが熟成し美味しくなる作用は調理の作業の中であまり考える事はなかった。熱加工は出来るだけ手早くする事が調理や加工時間を短くさせる事として加熱温度を上げ必要温度との温度差を大きくし効率化を図る考えが第一であった。種々の素材を低い温度で低温スチーミングを行っていると素材の状態からは考えられない様な旨味、甘さが出て、美味しくなる場合がある。野菜を糖度で比較すると1〜4度もの向上があり、肉、魚も共通する。旨味の凝縮である。加熱の目的に酵素を失活させる事も重要な意味があったが、逆に酵素を最大限に作用させる温度があっても良いのではないか、つまり酵素活性である。

その活性が最大となる温度は失活する直ぐ下の温度帯にあるのではないか。もう一つ、素材の繊維質、筋が柔らかになり、場合により無くなった様な剪断性が生じてくる。今まで美味しい料理には使えなかった素材がより美味しくなり、歯切れの良くなる場合もあり驚く事が多い。今迄の常識的な調理熱加工の方法について考えなおす必要性を感じる。これは学術研究機関の今後のテーマとして研究をお願いしたいものである。試食テストを行えばよく理解出来ると思う。