野菜を加熱する場合、多くは茹で、煮る方法がとられて来た。料理の内容により焼いたり、炒めたり、揚げ物に、又、蒸す方法、さらに電子レンジ加熱が採られる。科学的に考えれば基本的な物性が最も大きく変化するところは熱工程であり、美味しさを最も大きく左右する工程なのである。低温スチームで加熱すれば野菜料理、生の食感を楽しむサラダ料理や漬物においても、全ての材料に火を通すことが可能であり、火の通し加減が最も重要な作業となる。蒸気により食材を包み、熱を浸透させれば、食材の水分やエキスの流出は少なく、旨み成分を多く閉じ込めた状態で火を通すことができる。蒸気温度を下げ、野菜の特性に合わせた温度を選択すると、加熱温度を長くしても生の食感を残した硬さや鮮やかな色彩を保持でき、不思議な美味しさが生まれるのである。野菜の持つ組織や成分にとって最善となる加熱温度は殆ど100℃以下の温度である。蒸す方法も、適切な蒸気システムを構成すれば蒸気温度も調節でき100℃以下のスチーム空間を自在に作ることができる。100℃より低い飽和蒸気空間(湿度100℃)を低温スチームと呼び、95℃から40℃の温度を利用する。図1は低温スチーム空間の仕組みを表しているが、容器を逆さの状態にした空間に蒸気を緩やかに注入し、一定の温度になるようにコントロールする。中にあった空気は比重差で下方に移動し、任意に設定する温度に安定する。構造やスチームシステムがよけれが内部の温度はどの部分でも均一にすることができる。その蒸気空間であらゆる野菜をスチーム加熱すると、従来の概念になかった現象が生まれてくるのである。ほうれんそうの多くは茹でて食べるが、低温スチームすると、旨みが閉じ込められ香りがでて甘くなる。試食された多くの方々はその美味しさに驚く。以下に低温スチームによる効果を説明する。

野菜の硬さ柔らかさは自在になり、硬い感じがしても歯切れ良い、腰のあるこなれの良い食感が得られ、繊維質は柔らかく、歯切れよく変化している。成分の熱による破壊も少なく、場合により一部の栄養素は増加するのである。

素材の旨みを凝縮する現象が生じ、素材の状態からは信じられないような美味しさが生まれてくるのである。熟成現象、酵素活性化とも言われ、果物の保管中に生じる追熟と同様な現象である。成分の内、糖度の変化は無くとも酸の成分がまろやかになり甘味が増したような現象が生じる。

野菜に含まれるアクを生成する成分は加熱により外に出て酸素と結合しアクとなるが、蒸気中には酸素が少なくアクの生成、酸化現象は極めて少なくなる。野菜特有の生臭みはほぼ完全に除去されるのである。適切な温度を選べばその野菜の美味しい香りを多くすることもできる。アクの成分はスチームの中で放散し、茹でなければ取れないとする考えは誤りである。

野菜を何らかの方法で加熱すれば水分やエキス、種々の成分は流出や蒸発放散し、当初の重量は現象する。野菜の美味しさを邪魔するなどの、有害な成分は流出し、野菜の組織自身で保持する水分やエキスはできるだけ多いほうが良く、低温スチーム加熱は驚くほどその歩留まりが向上する。

殺菌効果が生じる。殺菌効果を高めるために加熱温度を高くすることが一般的。しかし美味しさを最大限に活かす加熱を選択するだけでも、調理段階における初発菌数を極めて低く抑えることができるのである。安全性を考えるあまり殺菌を優先した調理が行われているケースが多く、大量調理の現場では、美味しい新鮮野菜を過剰加熱し本来の美味しさが失われた状態にして供していることが多いのである。

メリットは加熱段階に水を殆ど使用しないことである。欧米では野菜の大量処理におけるブランチング(茹で作業)では熱効率が悪く、水の大量使用、排出処理、環境悪化などから「ブランチング問題」として長い間の検討課題となっている。

素材の状態を最大限活かした加熱は、従来、冷凍が不可能とされた野菜でも可能となり、さらに採りたての鮮度維持期間を長くすることも可能となる。

きゅうりやレタスはサラダやサンドイッチ、すしの巻物に多く用いられるが、低温スチーム加熱は生の色、食感をそのまま残すことができる。薬味として使用するねぎにおいても可能である。残念ながら、こうした技術研究は殆ど行われてなく情報も大半の加工、流通、生産者にもその情報は知られていない。