ここでは、筆者がかかわった低温スチームの技術の開発の経緯を簡単に述べる。

低温スチームというとヨーロッパで開発されたスチームコンベクションによる低温スチーミングと思われる人が多いが、日本で開発された低温スチームは、言葉は同じでも技術的には基本的に異なる。日本の低温スチーム技術の発展のきっかけは食品の量産加工における連続式熱水型低温殺菌装置の省エネルギー型の開発の段階に生まれたものである。前述したとおり、当時、筆者は、この省エネルギーの開発に深く関わった。昭和50年以前の低温殺菌方式は殆ど熱水に包装後の食品を浸漬し一定時間加熱する方法を採っていた。エネルギー効率は悪く、水を多く使用し大量の湯気を放出するなど環境を悪化させ、熱分布も悪く改善を求められていたのである。まず、熱水タンクから湯気の放出を止める技術開発のため、原料の出入り口を工夫し、湯気の放出を完全に止めることに成功した。装置を密閉することが無く空間の内部に物の入れ方や、出す方法など、その位置や構造の工夫をすることで、供給した蒸気の漏れを完全に止めることができ、驚異的な省エネルギー効果が得られ、その成果は従来の50〜90%もの低減が出来、大きなメリットを生じることになった。熱水式や密閉式に比較し製造コストも低減することにもなった。今や多くの食品工業分野で使用する低温殺菌システムは低温蒸気システムが常識であるが、低温殺菌装置は包装後の食品であるのに対し低温スチーミングは裸の食品材料を加熱することであり、装置は殆ど同様の方式と考えて良い。すでに大量の野菜を低温スチーム加工する技術は確立しているのである。野菜は季節的要因があり、加工の効率化を図るため、多種類の野菜に対応する工夫を要する。また、蒸気技術を基にした家庭用低温スチーミング電気鍋も開発され販売されている。

美味しい食品を作るには良い原料を使用することが第一の条件とされてきた。入手した食材が調理や加工の方法で一ランク上の美味しさが生まれる考えは無かったのである。低温スチーム加工した食材や加工品を食べた方々の感想は今までの既成概念を変える技術と評価し始めているのである。野菜を発売される方々が、仕入れておいた野菜を発売する際に、最も販売量の多い品種や根菜類からでも低温スチームした野菜をお客様に試食して頂けば、その美味しさを実感してもらえる。美味しさを感じたお客様はその野菜を必ず欲しいと思うはずである。野菜を新鮮のままに販売する考えを一歩進めて、家庭で簡単に調理し易く、しかも今迄よりも美味しく感じて貰える工夫をする必要がある。美味しく食べる一人一人の消費を増やし、販売量を増やす努力を積み重ねれば、やがて全体の消費も自然に増えて行くと思うのである。

 マーケティングの基本は消費の問題から流通のあり方を考え、生産をどのように進め、組み立てることが良いのかと考える。もし生産の都合から消費を考える施策であれば、現在のあらゆる状況に対応できないものになる。日本農業を活性化させるために野菜の消費を増やす施策は欠かせないものであるが、日本で開発された低温スチーム技術は1つの役割を話すと考える。

 野菜の生産や流通を担う方々、野菜に関心のある方々に低温スチームした野菜をぜひ食べてみて欲しいのである。美味しさを言葉で表すことは極めて困難であるが、改めて野菜の美味しさを実感すると思うのである。

 低温スチーム技術は産地や流通段階の鮮度維持応用や従来冷凍ができないとされた野菜の冷凍化も可能になる。さらに産地における市場に出せない廃棄野菜でも高品質な食品材料にする技術応用ができるのである。

 現状では、残念なことに低温スチーム技術や機器は広く普及されていない。当掲載を始め、様々な機会を利用してこの技術に対して理解を深めていただければ、さらなる野菜の消費拡大、日本の農業振興に役立つのではないかと考える。